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千葉地方裁判所一宮支部 昭和61年(ヨ)43号 決定

債権者 駒野教洋

〈ほか二一六名〉

債権者代理人弁護士 中島通子

同 林浩二

債務者 花澤ビルディング株式会社

右代表者代表取締役 花澤美智子

右代理人弁護士 田中一誠

同 長谷川康博

債務者 株式会社熊谷組

右代表者代表取締役 熊谷太一郎

右代理人弁護士 小嶋正己

債務者 東急リゾート株式会社

右代表者代表取締役 河野誠一

右代理人弁護士 堤義成

主文

一  債務者花澤ビルディング株式会社及び同株式会社熊谷組は、債権者岩堀茂雄、同岩堀とよ、同岩堀信之、同岩堀りつ子、同井内宏、同井内百合子、同三堀光作、同川崎忠及び同川崎喜久枝に対して、右債務者らが別紙物件目録一記載の土地上に建物中の別紙物件目録二記載の建物の内、別紙図面一及び二中の各イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ建物部分の建築工事を行ってはならない。

二  債務者花澤ビルディング株式会社及び株式会社熊谷組は、債権者栗原善雄、同栗原とし子、同鈴木勝雄、同鈴木セツ、同鈴木まさ、同鶴岡靖宏、同鶴岡春子、同滝美知、同滝喜代子、同中村勇、同中村キヨ、同鶴岡正幸、同鶴岡とし子、同抱井定雄、同抱井かつ代、同抱井ジュン、同忍足秀夫、同忍足ゆき、同忍足竹夫、同平野明及び同平野敏子に対して、別紙物件目録二記載の建物の二階から七階までの建物部分につき、右各債権者のプライバシーを侵害しないようその南側のベランダに適切な目隠し等の設備を施さなければならない。

三  第一項記載の各債権者及び前項記載の各債権者の債務者花澤ビルディング株式会社及び同株式会社熊谷組に対するその余の申請並びに右各債権者の債務者東急リゾート株式会社に対する申請をいずれも却下する。

四  前項記載の各債権者以外の各債権者の申請をいずれも却下する。

五  申請費用は、債務者花澤ビルディング株式会社及び債務者株式会社熊谷組に生じた費用の二分の一を右債務者の負担とし、その余の費用はすべて各債権者の負担とする。

理由

一  債権者らの本件申請の趣旨及びその理由は別紙一記載のとおりであり、債務者花澤ビルディング株式会社及び同株式会社熊谷組の申請の趣旨に対する答弁及びその理由は別紙二記載のとおりであり、債務者東急リゾート株式会社の申請の趣旨に対する答弁及びその理由は別紙三記載のとおりである。

二  そこで、審案するに、

1  本件各疎明資料によれば、次の事実を一応認めることができる。

イ  別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)はもと日本国有鉄道の所有であったところ、昭和五九年七月二八日マルト建設株式会社に売り渡された。本件土地については、建築基準法上、建ぺい率七〇パーセント、容積率四〇〇パーセントと規制されているが、高度制限、日影規制は行われていない。債務者花澤ビルディング株式会社(以下「債務者花澤」という。)は、本件土地にリゾート用分譲マンションである別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)の建築を計画し、昭和六一年五月七日建築確認を得た。本件建物は、全一一階(屋上に約一〇メートルの塔屋がある。)で屋上までの高さは約三一・五五メートル、建物横幅約七〇メートル、一二二戸の入居が可能となる鉄骨鉄筋コンクリート造りの建物でその立面図は、別紙図面一、二に記載したとおりである。債務者花澤は、本件建物の建築を債務者株式会社熊谷組(以下「債務者熊谷組」という。)に請け負わせ、債務者熊谷組は同年五月二六日ごろ本件建物の建築工事に着工し(昭和六二年七月竣工予定)、現在七階までの鉄骨組み及び同階までの関連工事が進行中である。また、債務者花澤は、昭和六一年六月二八日債務者東急リゾート株式会社(以下「債務者東急」という。)との間で債務者東急に本件建物に属する各区分建物の分譲の手続を委託する旨の販売委託契約を締結した。債務者東急は直ちに販売活動を行い、昭和六一年九月ごろには殆どの区分建物を売却することに成功した。

ロ  債務者花澤と債務者熊谷組は、本件建物の建築による日照遮蔽等が心配されたので、昭和六一年二月ごろから対象となる家庭、興津区長、観光協会長、漁業協同組合長らに対する事情説明を開始したところ、一部の住民からは排水ルートについての注文が出された。そのころ、勝浦市議会では本件建物(本件建物は「ブルースカイ勝浦」と呼ばれた。)の建築問題について質疑が行われた。同年三月ごろ債務者花澤は勝浦市建設課に諸問題の解決方法を説明し、住民に対する説明会を開催することを約束した。同年四月三日住民約六〇名の参加の下に第一回の現地説明会が開かれ、債務者花澤側から建築の概要についての説明のほか、風害に対する責任、排水の方法と問題の対策、上水道の概要、電波障害の対策等についての説明が行なわれ、日照遮蔽問題についてはこれを考慮して当初予定していた一四階建の建物を一一階建に変更した旨の説明を行った。また、同年四月一七日住民三五名が参加して第二回の現地説明会が行われ、債務者花澤側は概ね前同様の説明を行ったほか、日照遮蔽を受ける家庭とは個別に話し合いたいとの意向を伝えた。債務者花澤は主として日照遮蔽を受ける住民と接触したが、補償問題の協議に応じた住民はいなかった。これらの住民の一部は付近に存する善栄寺から借り受けた借地又は借家に居住していたが、善栄寺の住職である債権者駒野教洋は債務者花澤の担当者に対して建築建物の階数を減らすよう要請した。また、この問題に関心のある住民は同年五月一六日「上総興津駅前高層共同住宅建設興津地区対策協議会」(以下「対策協議会」という。)なる任意団体を結成し、善栄寺の住職である債権者駒野教洋が代表者に就任した。ところが、債務者花澤は同月二六日興津区長と債権者駒野教洋に対して整地工事に入る旨を告げるとともに日照遮蔽関係者とは補償問題を話し合いたいと申し出た。右対策協議会は千葉県知事と債務者花澤に対して本件建築工事に関して異議がある旨を申し出た。債務者花澤は同年六月一三日ごろ文書で問題解決に向けての基本的な考え方を対策協議会に示し、対策協議会が諸問題の交渉の窓口となることを了承した。債務者熊谷組は本件工事による諸影響の有無についての判断資料を得るために調査を実施し、債務者花澤は対策協議会との交渉を開始した。一方対策協議会は勝浦市議会に対して同年六月初旬早期円満解決のため請願の手続をとって働き掛けた。同年七月二八日善栄寺において右債務者らと対策協議会との間の第一回の協議会が開かれ、風害についての賠償の範囲、排水の処置、債務者が損害補償金の供託をすべきこと、工事中の迷惑行為に対して慰謝料を支払うべきこと等が話し合われ、これらの点については基本において対策協議会の了解が示されたが、日照遮蔽については継続して協議することとされた。同年八月一九日、第二回目の協議会がもたれ、債務者花澤側が述べた風害における因果関係、排水路の一部改修について見解については、対策協議会の了解を得たが、日照遮蔽関係者と個別に補償問題を協議したいとの申出は拒否された。同年九月初旬に第三回の協議会を開くことが予定されていたが、債務者花澤側は概ね住民の諒解があるものと理解して、同年九月ごろ本格的な建築工事に着手した。そのため、対策協議会議の態度は硬化するに至った。

2  ところで、今日の土地所有権その他の財産権は、その行使について絶対無制限の権原ではなく、憲法上公共の福祉に適合するように法律で定めるものと宣言されているほか(二九条)、同種、異種の他の財産権等を侵害することなく、それら権利行使との調和を取りつつ行使すべき内在的制約を有しているものと考えるべきことは、民法の不法行為制度、相隣関係の諸制度に照らし、明らかである。このことは、土地所有権又は利用権に基づき建物の建築を行う場合でも同様であり、建物建築が右内在的制約を超え、他人の権利の著しい侵害をもたらすこととなるときは、当然各種の責任を生ずるものと解される。すなわち、建物建築により、自らの財産権又は人格権の一部をなす生活上の利益が侵害された者は、損害賠償請求権を取得するほか、その侵害が著しく、一定の受忍限度を超えると評価されるときは、物権又は人格権による妨害排除請求権に基づき、右の行きすぎた侵害を排除し、かつ、工事の差し止めを求める請求権を取得するものと解することができるものである。そこで、右の見地から債権者らの主張に係る各被害につき検討することとするが、債務者東急は、前述のとおり債務者花澤から本件建物の各区分建物の販売委託を受けて販売を実施している者であるが、債権者の主張する本件申請の理由はいずれも本件建築それ自体によってもたらされる権利侵害であるということができるのであって、債務者東急の販売行為によって発生するものではないことが明らかである。したがって、債権者らの本件申請の目的は、債務者花澤及び同熊谷組に対して本件建物の建築の全部又は一部の差止めを求めることで達することができるものというべきである。よって、債権者らの債務者東急に対する本件申請は理由がない。

3  日照阻害

人間の健康な生活にある程度の日照が必要であることは公知の事実というべきであり、人は従前から享受していた日照をある程度まで確保しつつ生活を保持する法律上の利益を有するものと考えることができるから、建物建築により隣地居住者に日照阻害の状態が生じ、その程度が一般に受忍すべきものと考えられる基準を超えていると認められるときは、日照遮蔽を受けた隣地居住者(当該建物に長期的に居住することが見込まれ、他に住居を移転しては一定の生活上の利益を失う借地権者、借家権者を含む。)は、物権又は人格権による妨害排除請求権に基づき、建築の全部又は一部の差止請求権を取得するものと解するのが相当である。ところで、前述の受忍限度の判定に当たり、日照阻害の程度を評価するには、本来季節により変化する日照遮蔽時間帯の特質を考慮すべきであるところ、人間生活において時期により日照の必要性、有益性が変化すること等の事情に鑑みると、日照量(又は日照遮蔽時間)を測定する時期としては日照の価値が高まると考えられる冬至を選定するのが相当である。また、日照遮蔽時間の測定にあたっては、その地域における従前からの一般的な生活の状況、建物の建築後に生ずる変化の内容等を総合して判断すべきところ、本件各疎明資料によって認められる債権者らの居住する勝浦市興津地区の市街地の状況及び日照遮蔽が顕著であると見込まれる各家庭の生活状況(比較的老人が多い。)に照らし、地上一・五メートルの建物開口部を基準として、日影図等の図面を用いて測定することで足りると解される。この点について債務者花澤らは、右債権者らの居住する地域は建築基準法上の第二種住居専用地域に相当するから、地上四メートルの建物開口部を基準点として日照遮蔽時間を測定すべきである旨主張するが、本件各疎明資料によって認められる前記日照遮蔽家庭の建物の状況に照らすと、中高層建築物に対する規制と同様の基準を持ち込むのは妥当ではないと考えられる(債権者川崎忠、同川崎喜久枝その他の債権者の居住する家屋は平家である。)。

本件各疎明資料によれば、債務者花澤が当初計画したとおり本件建物が竣工したときは、本件建物のほぼ北側に国鉄外房線の線路敷きを隔てて存する債権者ら居宅につき日照遮蔽の被害が生ずるものと認めることができる。その被害を受ける債権者の内で二時間以上の日照遮蔽を被る債権者及びその日照遮蔽時間は、債務者熊谷組らが提出した日影図等によれば、概ね次のとおりであることが認められる(なお、この日照遮蔽時間は、いずれも日常生活で日照の価値が顕著になる午前八時から午後四時までにおけるものである。)。

イ  川崎宅(債権者目録番号61、62) 五時間一〇分

ロ  井内・三堀宅(同目録48ないし50) 四時間五〇分

ハ  岩堀宅(同目録37ないし60) 四時間一〇分

ニ  三瓶宅(同目録57ないし60) 三時間三〇分

ホ  高橋宅(同目録51ないし54) 三時間一五分

ヘ  渡辺宅(同目録192) 三時間一五分

ト  佐藤宅(同目録21) 二時間四〇分

チ  秋葉宅(同目録16ないし19) 二時間三〇分

リ  佐久間宅(同目録55、56) 二時間四五分

ヌ  柏熊宅(同目録20) 二時間四五分

ル  河村宅(同目録41、42) 二時間四〇分

ヲ  芝崎宅(同目録14、15) 二時間二〇分

ワ  高梨宅(同目録46、47) 二時間三〇分

カ  杉本宅(同目録43ないし45) 二時間

ヨ  浦部宅(同目録193、194) 二時間

ところで、前記受忍限度を判定するに当たっては、単に日照遮蔽時間のみを考慮に入れれば足りるものではないことは当然であり、日照被害をもたらす建物の建築目的又は用途、日照被害の地域性、建築過程における背信性の有無、被害者の要求の当不当などを総合的に斟酌して決すべきものと考えられるところ、本件各疎明資料によれば、興津地区には従来から日照遮蔽を生ずる高層建築物は存在せず、勝浦市もこの地区に建築基準法上の日照条例を制定していないこと、市街地のほぼ中央に建てられる予定である本件建物は、全一一階、塔屋までの高さが約四一メートルに及ぶものであるところ、私人用のマンションであって公共用建築物でなく、そのためこの地区の市街の状況からみてやや調和を失するきらいがあるとの印象を与える虞れがあること、債務者花澤らは本件建物の建築に着工する前に二回に亙り現地説明会を開催し、また対策協議会が発足したのちは、右協議会との話し合いを二回に亙り行っているが、日照被害については個別に補償の提供をする予定である旨を表明したものの、日照遮蔽の生ずる債権者らの同意には至らないまま、急拠本格的な建築工事に踏み切ったこと、そのため、対象協議会も態度を硬化させ、日照遮蔽を受ける各債権者も建築に反対する態度を強めていったことなどの事実を一応認めることができるまであり、これらの事実に前記のとおり本件建物による日照遮蔽が比較的広範囲に生ずるものと認められることを総合勘案すると、前述の受忍限度としての日照遮蔽時間は、午前八時から午後四時までの間において合計四時間以内であると認めるのが相当である。

そうすると、前記認定のとおり、川崎宅(別紙債権者目録61、62)、井内・三堀宅(同目録48ないし50)、岩堀宅(同目録37ないし40)の三軒の居宅について前記受忍限度を超える日照遮蔽が生じるものと認めることができる。したがって、債権者岩堀茂雄、同岩堀とよ、同岩堀信之、同岩堀りつ子、同井内宏、同井内百合子、同三堀光作、同川崎忠及び同川崎喜久枝には、右受忍限度を超える日照遮蔽の除去を求める妨害排除請求権(建築工事の一部差止請求権)が生ずるものと解されるから、保全の必要があるときは右請求権を被保全権利としていわゆる断行の仮処分を求めることができると解される。

債務者花澤らは、右日照遮蔽家屋に対しては、相当額の和解金の提供をしたほか、竣工後の本件建物の居室を提供する等の被害回復の措置を講じているから、右日照遮蔽家屋の債権者らには差止請求権を認めるべきではない旨主張するが、本件各疎明資料によれば、右のような提供は必ずしも日照遮蔽家屋の債権者らの望むところではなく、また、右のような提案を右債権者らが拒否したことが不当であると言い切ることもできないから、債務者花澤らの右の主張は採用できない。

以上述べたところによれば、右各債権者以外のその余の各債権者には日照遮蔽の被害を原因として本件建物の全部又は一部の差止請求権は生じないことになるから、その余の債権者の本件申請の内右の請求権を被保全権利とする部分はいずれも理由がないことに帰し、却下することとする。

次に、差止めの範囲があるが、債務者花澤らの提出した日影図を検討すると、結局本件建物の一〇階及び一一階の南西側の各五戸分(合計一〇戸、別紙図面一、二の各イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を直線で結んだ建物部分)の建築工事を行わなければ、右の受忍限度を超える日照被害が解消するものと認められるから、右の建物部分のみが前記各債権者の差止請求権の対象となるものというべきである。

また、保全の必要性についてみるに、本件各疎明資料によれば、債務者花澤及び同熊谷組の本件建物建築工事はすでに開始され、現在七階までの鉄骨の組み立てを終えていること、本件建物の構造等から前記各債権者の前記差止請求権は、本案判決を持って行使することには種々の困難を伴うことを認めることができる。よって、前記各債権者の差止請求権については、前述の建物部分に限り、建物の建築工事を事前に差し止めておくべき保全の必要性があるものというべきである。

4  通風、採光の阻害、圧迫感

通風、採光、空間的解放感は、いずれも生活上重要な利益であることは公知の事実であるが、本件建物の建築が各債権者についてどの程度右の利益を侵害するのか、その侵害の程度が各債権者の受忍限度を超えているか否かについては疎明があるとはいえない。よって、この点についての債権者らの主張は理由がない。

5  排水路の溢水・上水の枯渇・海の汚染

本件各疎明資料によれば、完成後本件建物には多数の入居者が生活する見込みであり、そのためその地域の生活排水が増加する見込みであることが認められるが、一方では債務者花澤らは本件建物から流出する排水の量を調節する設備を設置しようとしていることが認められるのであり、右の生活排水の増加が直ちに排水路の溢水をもたらすものであるかについては、なお疑問の存するところである。また、右生活排水の増加がどの程度の海水の汚染をもたらすのかについても、疎明が足りないというべきである。更に、本件建物の建築により、周辺地域の井戸水等の上水の枯渇をもたらすか否かについても必要な疎明があるとはいえない。以上によれば、生活排水の悪影響及び上水の枯渇を理由として本件建物の建築の差止めを求める債権者らの請求は、その受忍限度を判断するまでもなく理由がない。

6  風害

本件疎明資料によれば、本件建物の建築により債権者らが家屋に瓦の飛散等の風害が生ずるのではないかとの不安感を有していることが認められるが、どの程度の風害がどの範囲の家屋に生じ、そのような風害が各債権者の受忍限度を超えているか否かについては、疎明があるとはいえないから、この点についての債権者の主張は理由がない。

7  プライバシーの侵害

本件各疎明資料によれば、竣工後の本件建物の南側には、その敷地に隣接して一部の債権者の居宅が存していることが認められ、本件建物と右居宅との距離はいずれも短く、本件建物の各居室の南側ベランダから容易に右居宅を覗き見ることができるものと推認することができる。実際には、各居宅の建物の構造等により現実のプライバシー侵害が発生することは少ないと考えられるが、そのような位置関係が右の債権者らに心理的不快感、不安感等を与えるであろうことは推認するに難くない。また、これらの状態を解決するためには、本件建物の南側ベランダに適切な目隠しを施すことで足りるから、右債権者らについて高度の受忍限度を要求する必要もないというべきである。したがって、本件建物の南側に居住する債権者栗原善雄、同栗原とし子、同鈴木勝雄、同鈴木セツ、同鈴木まさ、同鶴岡靖宏、同鶴岡春子、同滝美知、同滝喜代子、同中村勇、同中村キヨ、同鶴岡正幸、同鶴岡とし子、同抱井定雄、同抱井かつ代、同抱井ジュン、同忍足秀夫、同忍足ゆき、同忍足竹夫、同平野明及び同平野敏子には、プライバシーの侵害を理由として、本件建物の二階から七階までの各階の南側ベランダに適切な目隠しを設置することを求める請求権が生ずるものと解することができ、前記各事実によれば、現時点でその実行を求める必要性(保全の必要)もあるものと認められる。

8  眺望侵害

本件建物の完成により南側に居住する債権者らに、北側に存する丘陵地帯に対する眺望が一部阻害される可能性があることが認められるが、他の方向に対する眺望には影響を及ぼさず、北側に対する従来の眺望も生活の重要な利益であったといえるかについては疎明が十分ではないから、結局右の程度の眺望侵害は、各債権者の受忍限度の範囲内にあるものと認めることができる。よって、この点についての債権者らの主張も理由がない。

9  営業権の侵害

本件疎明資料によるも、本件建物の建築及び分譲により、興津地区の民宿業その他の各種営業に悪影響が及ぶものとの事実を認めることはできない。よって、この点についての債権者らの主張は理由がない。

三  以上によれば、債権者らの本件申請の内、一部の債権者につき債務者花澤及び同熊谷組に対して本件建物の一部の建築の差し止めを求める部分及び本件建物の南側のベランダの一部に適切な目隠しの設置を求める部分については理由があるから認容し、その余の申請(債務者東急に対する申請を含む。)及びその余の債権者の各申請はいずれも理由がないから却下することとし、申請費用について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 慶田康男)

〈以下省略〉

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